表情の端々から見て取れる畏怖と不安。目元から零れ落ちる雫が、床に水玉模様を作っていく。

 聖歌を一人残していくのは……無理なのかもしれない。でも、三人が怪我をしていたら、足を挫いて走れなくなっていたら……なんて考えてしまう。

 どうしよう。ここも別に安全じゃない。でも、今の状態の聖歌を連れて行くのは無理だ。
 かと言って置いていって一人ぼっちにさせるのも……かなり非情だ。

 合流は諦めようと思って、聖歌に声をかけようとした時。

 バタバタ……ッ。

「っ!」

 遠くから足音が聞こえ、体が強ばる。こちらに近づいてきているようで、少しずつ大きくなっていく。

 私はもう一度机の影に身を隠して、顔を覗かせて様子を窺う。
 扉の磨りガラスに映る人影。このシルエット……もしかして。

「……お、羽田姉!」

「飛翔! 陽介!」

 開け放たれた扉の向こうにいたのは、飛翔と陽介だった。
 やっぱり、背丈が高かったから、鬼じゃなかった……。

「よ、陽介くん……」

 聖歌も好きな人の顔を見ようとひょこっと顔を出す。瞳に映る彼の姿に安心したのか、その場にぺたんと座り込む。

「小野もいるんだな。……羽田妹は一緒じゃないのか?」

「鬼に追いかけられてるうちにはぐれちゃって……」

「そうか。心配だな……」

「うん……あれ、陽介どうしたの?」

 こちらに歩み寄ってきた二人を改めて見ると、何だか陽介がおかしい。右足を庇うようにひょこ、ひょこと変な歩き方をしている。

「逃げてる最中に転んで足を挫いたんだ」

「嘘……大丈夫?」

「暫くは走れないから少し休憩するよ。まあ、どこも安全じゃないけどね」

「休憩……」

 私の頭に、ピコーンと一つの考えが浮かぶ。こんな状況でちょっと不謹慎とは分かってるけど……聖歌を少しでも安心させてあげたいし。