二人で机に隠れながら、私は椅子の隙間から廊下の方をちらりと見る。
 ……いる。追いかけてきた男の子だ……っ。

 ゆらり、ゆらりと体を揺らし、悠々と歩いている。

「くすくす……」

 微かに聞こえる笑い声。私は息を殺し、まだ息が整わない聖歌に見えるよう、人差し指を唇に当てる。

 どくどくと脈打つ心臓が金切り声を上げる。見つかりたくない一心で、神様に祈るように唇を噛み締める。

 不意に、男の子は首ごと捻り切れそうな勢いで、ぐるんと教室の方へ体を向けた。

「ひっ……」

 有り得ない角度──垂直に傾けられた首。じわりと恐怖が身を焦がす。ここで見つかったら確実に逃げられない。

 いなくなれ、いなくなれ、いなくなれ……お願い、早くっ!

「……いなくなっちゃった!」

 男の子は独りでに叫ぶと、ぐるんと方向を変え、またゆらり、ゆらりと歩き始めた。
 足音が聞こえなくなった頃に、私は無意識に止めていた息をようやく吐き出した。

「あ、あぶな……」

「はぁっ……あの子、もう……行ったの?」

「うん、もう大丈夫」

 無理させちゃったな……と聖歌の背中を優しくさする。少しずつ呼吸が落ち着いてきたみたいで、聖歌は「ありがとう」と顔を綻ばせた。

 ……やっぱり鬼はあの子どもだ。あの子達に捕まったら失格……小さいのに足が早い。油断してたらすぐゲームオーバーだ。

 でもどうしよう。ロクに周りを見ずに走っていたせいで美月達とはぐれちゃった。
 三人は大丈夫かな……皆運動は得意じゃない方だし、心配……。

 人が多いことに越したことはないし、合流しておきたいよね。

「……私、三人を探しに行ってくる」

「え……っ」

「大丈夫。聖歌はここにいて」

 息も整ったし、たとえ追いかけられても逃げ切れるはずだ。

 ふと、あの男の子の顔が頭に浮かぶ。まるで楽しんでいるかのような、でも愛らしさなんて感じない、まさに狂気そのものの表情。

 一瞬私の中に、あの時の震えが想起された。
 ……でも、三人の無事は確認しておきたい。それに何かあれば私が背中を押して走ってあげられる。

「……行ってくる」

 ライトをつけたスマホを持って立ち上がると、聖歌がぎゅっと私の服の裾を掴んだ。

「嫌っ……お願い、一人にしないで!」

「聖歌……」

「怖いの……一緒にいて……お願いっ」