誰も動けない。止めようとしない。足が動かない。
 いつもなら誰かが仲裁するのに、ただ呆然とその光景を見ていることしかできなかった。

「私を裏切るつもり!?」

「やってたのは愛佳じゃん! バレて困るようなことする方が悪いし!」

「うるさい! うるさいうるさい!!」

「いっ……!」

 がんっと咲の頭がガラスに激突し、咲が顔を顰める。そろそろ止めないとまずい。そう分かっているのに、私の口から言葉は出ない。
 止めなきゃ、止めなきゃ……止めないと、ダメだ!

 そう思って、私が一歩踏み出した瞬間。
 かたり、と咲の背後の窓が傾いた。

「──え」

 それからは、まるでスローモーションのように見えて。
 後ろに傾いた窓ガラス。それに気づかず、咲に掴みかかったままの愛佳。支えを失って背中から落ちていく咲。

 愛佳を掴んでいた咲の手が虚空を舞い、唖然とする咲の顔が、間際に垣間見えた。

 ──ガシャン! グシャッ!

「ひっ……」

 皆、息を飲む。耳を塞ぎたくなる、肉が潰れるような重い音が、階下から木霊した。
 教室に咲の姿はない。下に、落ちたのだ。

 3階の教室から、真っ逆さまに……落ちた。

「ぅ……ぁ……」

 愛佳は身を乗り出し、咲が落ちていった方を見つめている。時折零れる悲痛な呻き声で、察してしまった。
 全員が、一斉に息を飲んだ。

 咲……無事、じゃない、の?

「嘘……でしょ」

「おい……湖山! 離れろ!」

「咲……咲っ!」

 窓の縁にしがみつき、その場から動かない愛佳を智也が引き剥がす。ちらりと咲が落ちていった方を見て、そしてぐっと唇を噛んだ。

 咲……咲は、咲はどうなったの?

「ね、ねぇ智也……っ!」

「っ来るな」

 窓に駆け寄ろうとする私を、智也は冷たく一蹴する。俯く智也と血の気の引いた愛佳の顔。この世の終わりのような、そんな雰囲気。

 嫌だ……嫌だよ。まだ間に合うよ。ドラマとかであるじゃん、一命を取り留めたっていうの。手遅れなんて……嫌だよ!

「カミサマ……お願い、扉を開けて。お願いだから!」

『ザザ……お題違反を確認。失格処分を下します』

 私の叫びを無情に切り捨て、『カミサマ』は冷淡な口調のまま告げる。

 その途端、突然、小さな子どもたちが四人、空中から現れた。
 それはまるでファンタジー世界にある、瞬間移動みたいで。