英治は友也を突き飛ばしスマホを取り上げると、気力を無くしたように無言で教室の隅に蹲ってしまった。

「……ごめん、次は私の番」

 次いで、私の真正面にいた天野楓が、小さく手を上げた。

 楓……ずば抜けたリーダーシップで私達をいつもとりまとめてくれた、頼れる委員長。
 誰かを裏切るなんて考えられない。なのに、どうして……。

「偶然見ちゃったの。ね、佐倉さん」

「えっ……」

 名指しされた佐倉檸檬は、虚を衝かれたように焦りと不安を滲ませる。
 スマホを操作した楓は、友也がしたようにこちらに画面を向けた。

 私服を着た女の子の写真。背景から察するに、多分雑貨店にいるんだ。
 ショルダーバッグの中に入れているのは……人気ブランドのコスメだった。

 ちらりと見える横顔は、紛れもなく檸檬のもので。

「この万引きしてるの、佐倉さんだよね?」

「嘘……」

「話しかけようとしたらこんな事してるんだもの。つい撮っちゃった」

 悪く思わないでね、と続ける楓。周りの皆は疑いの目を檸檬に向け、どこからか「それは無いわ」と小さな声が聞こえてきた。

「……ごめん」

 檸檬はぎゅっと下唇を噛み締めると、後ろにある机の上に腰を下ろし、下を向いた。

 これで二人目……自分が失格にならないために、誰かを裏切るの?
 仲良しだったのに、皆で楽しく、A組で過ごしてたのに。

「……僕もいいかな」

 どうして、なんて疑問が馬鹿らしくなってくるほど、裏切り者がまた名乗りを挙げる。

 釘宮雅人。学年でも1、2を争う成績優秀者。
 雅人は恨みを宿した瞳で、古野聖夜を見た。

 二人は自他ともに認めるライバル。いつも成績のことで争ってて、それでも仲が良くて。
 だから尚更、雅人が聖夜を裏切るなんて考えられなかった。

 でも、雅人の目が本気なんだと伝えてくる。

「聖夜、君が……カンニングするような人間だなんて思ってなかったよ」

「……は?」

 聖夜が狼狽したのは一目見て分かってしまった。どうして知ってる、とでも言いたげな顔で、雅人を睨む。

「……証拠は?」

「証拠は無い。でも、見たんだよ。僕の席から君はよく見えるからね」