そこにいたのは、幼稚園児ほどの、小さな女の子だった。小綺麗な服を着ているのに、髪の毛はざんばらといったちぐはぐな様子に、違和感が私を襲う。
 どうしてこんな時間に中学校にいるの……?

「くすくす……」

 女の子が不気味な笑い声をささめく。笑っているはずなのに、怖い。幼い見た目に反して無邪気さの欠片も感じなかった。

 私が後ずさりした時、ふらり、と誰かが前へに出た。
 後ろ姿を見て、一瞬で誰だか分かった。

「は、華ちゃん……っ!」

 華ちゃんは私の声にぴくりとも反応せず、覚束無い足取りで女の子の方へ歩いていく。
 一歩、また一歩……吸い寄せられるように。

「おい……!」

「前畑さん待って! その子何かおかしいよ!」

 次々に飛び交う制止。華ちゃんは振り返りもせず、ついに女の子の傍まで辿り着く。

「……ふふっ」

 女の子は笑いながら華ちゃんへ手を伸ばす。華ちゃんはゆったりとした動きで、まるで自ら受け入れるように、その手を取った。
 瞬く間に、華ちゃんは空気に解けるようにその場から姿を消した。

 ……消え、た?

「は……?」

「消えた……」

 隣にいる聖歌が私の腕をぎゅっと抱きしめる。聖歌の震えが私にまで伝わってきて、ぞくりと恐怖が押し寄せる。

 華ちゃんが消えた。女の子と一緒に、忽然と姿を消した。
 何が、起きて……。

『ザザ……お待たせいたしました』

 パニックになった教室に、スピーカーから放送が流れた。

 頭が真っ白になりながら、どくどくとうるさい心臓に蓋をして、スピーカーに目を向ける。

『これより、カミサマ鬼ごっこを開始します』

 ──なん、で……?

 ノイズに混じって聞こえる、無機質な女の子の声。感情なんて微塵も感じられず、まるで人間じゃない……そう、例えるならば『カミサマ』のような。

 どうしてこんな時間に放送が流れたのか、『カミサマ鬼ごっこ』の開始を宣言したのか、なんて……考えたくもない。

 異質な小さな女の子。目の前で消えた華ちゃん。
 今の時間に入れるはずのない放送室から発せられる言葉。

 誰もが理解した。感情が拒んでも、頭は実に理性的で、正しい判断を下してしまった。

 都市伝説の──狂ったゲームの開幕だと。