「そんなに謝らなくて大丈夫だよ。むしろ書類終わってなくてごめんね。今からやるので!」
「あ、いや、急ぎじゃないから大丈夫。」
「後輩の指導とか…ご指摘の通り、目も腫れてたので仕事のペースはいまいちだったかも。そんなにわかりやすい?もしかして気を遣われて聞かれなかったのかな。」
普段、それほど饒舌ではない紫月がここまでぺらぺらと話すのは、同期ゆえに気の緩みもあるが、気まずい空気にしたくなかったのが大きい。静かで動きのない空間を作りたくなくて、紫月はポーチからミラーを出して、目元を確認した。確認するまでもないが、やや腫れぼったい。仕方がないので、眉を下げて日向に笑みを返した。その笑みが普段あまり見ないものだったため、何故か妙に日向の心に引っかかりを残してしまう。その引っかかりを解決する糸口を見つけたくて、日向は口を開いた。
「いつもなら終わってるものが終わってないのが変だなって思ってさ。そういえば今日は朝から外に出てたから、真っ直ぐ顔見てなかったなって思ってちゃんと見たらなんか、腑に落ちたって感じだから…多分、他の人は気付いてないと思うよ。メイクがいつもと違うってわけじゃないし。」
こういうところが優秀な営業なのかもしれないと、日向の観察眼に素直に目をみはった。
「え?あ、なんか変なこと言った、俺?」
「あ、ううん。よく見てるんだなぁって。さすがだな、と思っただけ。周りのこと、いつもよく見ててちゃんと覚えてるんだ、すごいなと。」
「全部を全部、見て覚えてるわけじゃないよ、さすがにね。でも、梅原さんの違いには気付けてよかった。」
「…ありがとう。とりあえず、ばれたのが日向君だけでよかった、かな。」
思わずこぼれた本音に、日向はさっきよりもほっとしたように微笑んだ。
「書類、俺が作ってもいいよ。先帰ったら?早めに休んだ方がよくない?」
「任されたことはやるよ、社会人だもの。」
むしろ今は、やらなきゃならないことで頭をいっぱいにしたい。そうすれば、余計なことを考えなくて済むから。一人になって動きを止めてしまうと考えてしまう。『私はどうしていつもダメなのだ』と。
仕事に戻ろうとPCに向き直った紫月を見れば、日向はそのまま自分のデスクに戻ってくれる。そう思ったのに、その日の日向はそうしなかった。
「…言いたくなかったら話さなくてもいいけど、気になったから聞いていい?」
「あ、いや、急ぎじゃないから大丈夫。」
「後輩の指導とか…ご指摘の通り、目も腫れてたので仕事のペースはいまいちだったかも。そんなにわかりやすい?もしかして気を遣われて聞かれなかったのかな。」
普段、それほど饒舌ではない紫月がここまでぺらぺらと話すのは、同期ゆえに気の緩みもあるが、気まずい空気にしたくなかったのが大きい。静かで動きのない空間を作りたくなくて、紫月はポーチからミラーを出して、目元を確認した。確認するまでもないが、やや腫れぼったい。仕方がないので、眉を下げて日向に笑みを返した。その笑みが普段あまり見ないものだったため、何故か妙に日向の心に引っかかりを残してしまう。その引っかかりを解決する糸口を見つけたくて、日向は口を開いた。
「いつもなら終わってるものが終わってないのが変だなって思ってさ。そういえば今日は朝から外に出てたから、真っ直ぐ顔見てなかったなって思ってちゃんと見たらなんか、腑に落ちたって感じだから…多分、他の人は気付いてないと思うよ。メイクがいつもと違うってわけじゃないし。」
こういうところが優秀な営業なのかもしれないと、日向の観察眼に素直に目をみはった。
「え?あ、なんか変なこと言った、俺?」
「あ、ううん。よく見てるんだなぁって。さすがだな、と思っただけ。周りのこと、いつもよく見ててちゃんと覚えてるんだ、すごいなと。」
「全部を全部、見て覚えてるわけじゃないよ、さすがにね。でも、梅原さんの違いには気付けてよかった。」
「…ありがとう。とりあえず、ばれたのが日向君だけでよかった、かな。」
思わずこぼれた本音に、日向はさっきよりもほっとしたように微笑んだ。
「書類、俺が作ってもいいよ。先帰ったら?早めに休んだ方がよくない?」
「任されたことはやるよ、社会人だもの。」
むしろ今は、やらなきゃならないことで頭をいっぱいにしたい。そうすれば、余計なことを考えなくて済むから。一人になって動きを止めてしまうと考えてしまう。『私はどうしていつもダメなのだ』と。
仕事に戻ろうとPCに向き直った紫月を見れば、日向はそのまま自分のデスクに戻ってくれる。そう思ったのに、その日の日向はそうしなかった。
「…言いたくなかったら話さなくてもいいけど、気になったから聞いていい?」



