紫陽花の憂鬱

「あっ…え、えっ!?可愛い…?」
「うん。今日も、今まで見れなかった可愛い顔、結構見れたから『お互い様』なの。」
「いやっ…ぜ、全然可愛い顔なんて、してない…。」
「そんなことないんだって。あのさ、可愛いって顔の造りだけのことを言ってるわけじゃないからね?もちろん梅原さんは顔もちゃんと俺にとっては可愛いけど、今日はいつもと違う表情を見せてくれたことが可愛いから。」
「か、可愛いを連呼、ちょっとストップ!」
「え~どうしようかな。」
「だって私は、可愛くは…ない、はず…だから…。」

 可愛くないから、愛されない。見た目も、中身も可愛くない。だから大事にされない。ずっとそうで、最近もそうで、だからこれからもそうだと思っているのに。

「…根深そうな呪いの言葉が、梅原さんにはいっぱいまとわりついてるんだなってことは、何となくわかった。だから俺も、同期でいい、もうちょっと仲良くなってからなんて言い訳してないで進むことにしたから。」
「進む…?」
「うん。なんか、今後もそうやって変な男で辛い思いするくらいなら、俺の方がちゃんと梅原さんのこと見てるし、ちゃんと話を聞くこともできるのになって。」
「へっ…?」

 紫月としてはキャパオーバーだった。連呼された、自分に向けられた『可愛い』の言葉も、同期としての信頼の言葉も、勘違いだったら恥ずかしいが、うっすらと感じる好意が見え隠れする言葉も、こんなに真っ直ぐに投げかけられたことが初めてで、ただただ頬が熱くなる。体中が妙な熱を持つ。外に熱を逃がしたいのに、こうやって熱が灯ったことがないから、その逃がし方だってわからない。

「…さっきより赤くなった。じゃあ、ちょっとは脈がありそうかな?…今すぐどうこうとは思ってないけど、梅原さんを大事にしたいなって思ってるやつが近くにいることだけ、覚えておいて?」

 普通に会話をしていたときとは違う、少し甘さが含まれた声にまた体の熱が上がる。今は耳が熱い。言いたいことはあるのに、言葉に上手くまとまってくれなくて、紫月は「う…」「あ…」と声を漏らすだけだった。そして、そんな紫月を見て、日向は楽しそうに笑っている。紫月の方だって、日向の知らない表情がまた一つ、知っているものに変わっていく。それは見たことがない笑顔で、その笑顔が仕事中より少し可愛く見えて、それもなんだか恥ずかしい。