「ふっ…はは!面白いね、梅原さんは。そっか、自分に都合のいいこと、ね。それは褒める言葉が多いってこと?」
「簡単に言うとそう!」
「全部本心だけどな。…というか、なんか、やっぱり結構怒ってるからかな。梅原さんが不当に傷つけられたことに。そうじゃないって思ってほしくて、いつもより多く話しただけだよ。都合のいい、耳障りのいい言葉だけを話したんじゃないし、褒められてるって感じたなら本当に褒めてるんだから、そのまま受け取って。」
「そのまま、受け取る…。」
「うん。」
『そのまま受け取る』ということが、紫月にはずっと難しい。そのまま受け取って幸せだと思えたものが少なすぎて、与えられたものが優しいものだと、より一層慎重になってしまう。ずっと姉と比べられ、姉より成績が良くても姉の立場を考えてないと叱られ、かといって手を抜くことはできなくて、テストの度にいい顔はされなかった。姉がねだれば大抵のものは買い与えられたが、紫月はもういつの頃からかは忘れてしまったが、親に何かをねだるということは子供の頃からしてなかったように思う。諦めることだけが早くなり、欲するという気持ちはなくなり、お金をかけなくてもできた読書だけが拠り所で、それが紫月の学力と就職を後押しした。『紫月』と呼ばれるときは大概が叱られるときで、良い思い出だったことなんて、今では何一つ思い出せない。両親と姉、家族というものから距離を置けるようになったことは、大人になって良かったと思えることの第一位だ。
「…嬉しいことを、日向くんはたくさん言ってくれてるのに、上手に受け取れなくてごめんなさい。…さっき日向くんが呼んでくれたみたいに、その、なんでもないことみたいに自然に、でも優しく名前を呼んでもらった経験が少なくて、…だから、名前もあんまり、好きじゃなくて。」
「そうなんだ。あ、じゃあさっき俺がいきなり呼んだのも不快にさせた?」
「あ、ううん!全然…不快とかじゃなくて、…こういう風に呼んでもらえることもあるのかって思った、かな。」
頭を撫でられた時も、名前を呼ばれた時も、きっとこういう温かさが子供のときに欲しかった。そんなことを思う。
「嫌では、なかった?」
「うん、もちろん!むしろ今日はいっぱいフォローさせててごめんね!憂鬱な顔してたからだよね。」
「…まぁ、確かにね。憂鬱な顔というか、背中が疲れてた。でも、普段から梅原さんの仕事ぶりに助けられてるし、そこはお互い様だよ。」
「…仕事の話じゃないところのフォローをしてくれてるのに、お互い様?」
紫月はじっと日向の目を見上げる。
「簡単に言うとそう!」
「全部本心だけどな。…というか、なんか、やっぱり結構怒ってるからかな。梅原さんが不当に傷つけられたことに。そうじゃないって思ってほしくて、いつもより多く話しただけだよ。都合のいい、耳障りのいい言葉だけを話したんじゃないし、褒められてるって感じたなら本当に褒めてるんだから、そのまま受け取って。」
「そのまま、受け取る…。」
「うん。」
『そのまま受け取る』ということが、紫月にはずっと難しい。そのまま受け取って幸せだと思えたものが少なすぎて、与えられたものが優しいものだと、より一層慎重になってしまう。ずっと姉と比べられ、姉より成績が良くても姉の立場を考えてないと叱られ、かといって手を抜くことはできなくて、テストの度にいい顔はされなかった。姉がねだれば大抵のものは買い与えられたが、紫月はもういつの頃からかは忘れてしまったが、親に何かをねだるということは子供の頃からしてなかったように思う。諦めることだけが早くなり、欲するという気持ちはなくなり、お金をかけなくてもできた読書だけが拠り所で、それが紫月の学力と就職を後押しした。『紫月』と呼ばれるときは大概が叱られるときで、良い思い出だったことなんて、今では何一つ思い出せない。両親と姉、家族というものから距離を置けるようになったことは、大人になって良かったと思えることの第一位だ。
「…嬉しいことを、日向くんはたくさん言ってくれてるのに、上手に受け取れなくてごめんなさい。…さっき日向くんが呼んでくれたみたいに、その、なんでもないことみたいに自然に、でも優しく名前を呼んでもらった経験が少なくて、…だから、名前もあんまり、好きじゃなくて。」
「そうなんだ。あ、じゃあさっき俺がいきなり呼んだのも不快にさせた?」
「あ、ううん!全然…不快とかじゃなくて、…こういう風に呼んでもらえることもあるのかって思った、かな。」
頭を撫でられた時も、名前を呼ばれた時も、きっとこういう温かさが子供のときに欲しかった。そんなことを思う。
「嫌では、なかった?」
「うん、もちろん!むしろ今日はいっぱいフォローさせててごめんね!憂鬱な顔してたからだよね。」
「…まぁ、確かにね。憂鬱な顔というか、背中が疲れてた。でも、普段から梅原さんの仕事ぶりに助けられてるし、そこはお互い様だよ。」
「…仕事の話じゃないところのフォローをしてくれてるのに、お互い様?」
紫月はじっと日向の目を見上げる。



