紫月は深くため息をついた。気が付けば周りはほぼ退勤していて、フリースペースには自分だけになっていた。
窓際の花瓶に生けられた紫陽花にふと目がいった。誰が花瓶の花を変えたのかは知らないが、数日前から紫陽花に変わっていたように思う。そういえば、通勤途中でも可愛らしく花開いた紫陽花を見つけたっけ、なんてことを思い出して、今度は視線が落ちていく。
(…花瓶の紫陽花も道端の紫陽花も可愛く咲いてるのに、私は全然咲けないね。同じ『紫』なのに。ってあんまりにもポエムか、こんなの。)
随分とくだらないことを考えてしまった。こんなことで手を止めている場合ではない。今日は後輩に書類の手直しの仕方を教え、そのチェックをし、業務時間内で終わらせて定時に帰すということに注力してしまった。その結果、フリースペースには広げたままの関連書類が散らばっている。あれもこれもと色々説明しすぎたかもしれないと、少し反省しつつ、手を伸ばせるだけ伸ばして書類をかき集めて、あらかた集め終わった、その時だった。
「梅原さん。お疲れさま。明後日使う書類って、もしかして終わってる?」
紫月が振り返るとそこには同期の日向がいた。営業部は最近あまり忙しくなかったはずだったため、いることに驚いたが、ひとまず聞かれたことには答えなくてはならない。
「…ごめん、これからなの。」
「あ、そうなんだ。珍しいね。」
日向がゆっくりと紫月の使っているデスクに近付いてきた。そして紫月の隣まで来ると、真っ直ぐに紫月を見つめた。
「…な、なに…?」
「あ、ごめん。まじまじと見ちゃって。」
「何か顔についてる?」
「ううん。…えっと、俺の勘違いだったらごめん。なんか、目が腫れてるかなって。気付いたら気になって、確認したくてじっと見ちゃった。…普通に失礼だね、ごめん。」
ぺこっと頭を下げて謝る日向はいつだって穏やかで、周りをよく見ている気配り上手で有名だ。営業の日向と、営業事務の紫月。何かと一緒に仕事をすることも多く、同期として5年近くをそれなりに仲良く過ごしてきたが、こんな風に自分の『異変』に気付かれ、それを口に出されたことは今までになかった。そのせいで一瞬怯んでしまったが、重すぎないトーンで謝る日向に、紫月はクスっと笑ってしまった。
窓際の花瓶に生けられた紫陽花にふと目がいった。誰が花瓶の花を変えたのかは知らないが、数日前から紫陽花に変わっていたように思う。そういえば、通勤途中でも可愛らしく花開いた紫陽花を見つけたっけ、なんてことを思い出して、今度は視線が落ちていく。
(…花瓶の紫陽花も道端の紫陽花も可愛く咲いてるのに、私は全然咲けないね。同じ『紫』なのに。ってあんまりにもポエムか、こんなの。)
随分とくだらないことを考えてしまった。こんなことで手を止めている場合ではない。今日は後輩に書類の手直しの仕方を教え、そのチェックをし、業務時間内で終わらせて定時に帰すということに注力してしまった。その結果、フリースペースには広げたままの関連書類が散らばっている。あれもこれもと色々説明しすぎたかもしれないと、少し反省しつつ、手を伸ばせるだけ伸ばして書類をかき集めて、あらかた集め終わった、その時だった。
「梅原さん。お疲れさま。明後日使う書類って、もしかして終わってる?」
紫月が振り返るとそこには同期の日向がいた。営業部は最近あまり忙しくなかったはずだったため、いることに驚いたが、ひとまず聞かれたことには答えなくてはならない。
「…ごめん、これからなの。」
「あ、そうなんだ。珍しいね。」
日向がゆっくりと紫月の使っているデスクに近付いてきた。そして紫月の隣まで来ると、真っ直ぐに紫月を見つめた。
「…な、なに…?」
「あ、ごめん。まじまじと見ちゃって。」
「何か顔についてる?」
「ううん。…えっと、俺の勘違いだったらごめん。なんか、目が腫れてるかなって。気付いたら気になって、確認したくてじっと見ちゃった。…普通に失礼だね、ごめん。」
ぺこっと頭を下げて謝る日向はいつだって穏やかで、周りをよく見ている気配り上手で有名だ。営業の日向と、営業事務の紫月。何かと一緒に仕事をすることも多く、同期として5年近くをそれなりに仲良く過ごしてきたが、こんな風に自分の『異変』に気付かれ、それを口に出されたことは今までになかった。そのせいで一瞬怯んでしまったが、重すぎないトーンで謝る日向に、紫月はクスっと笑ってしまった。



