こんにちは、推し様

「ちょちょ、ちょっと待って~!」

ミズキがそう言いながら私の腕をグイッと引き寄せた。

もちろん私は体勢を崩してミズキの胸へとダイブする。

ハッと顔を上げるとミズキの顔が斜め上にあった。

胸に飛び込むというさっきとはまた違うパターン……というかデジャヴである。

「あわわ、さっきといい、今といい、ほんとごめんなさい!」

シュバッとミズキから離れる。

「こっちこそ……ごめん蓮花(・・)

入口の時とは違って顔を赤らめながらそう謝ってきたミズキ。

あれ?というかミズキいま私の名前呼んだ……?気のせいかな?

そう思ったのもつかの間、ミズキが「ほんっとにごめんだけど、急がないとマジで間に合わないよ!」と言いながら私の手を引っ張ってレジに早歩きで向かう。

さっきみたいにコケないように頑張ってついていく。

レジに向かう途中で饅頭の箱を一つ取ってかごの中に入れたミズキ。

お会計を待つ列に並んでいる間に饅頭の説明をしてくれた。

「さっき渡した封筒のお金使って」

ミズキがお会計をする列の最前に来た時にそう言った。

あっ、そうだったそうだった。ミズキが封筒渡してくれてたこと忘れてたよ~。

そんなことをのんびり思いながら封筒をかばんから取り出しておく。

レジでお会計をしてデパートを出た。

「ふぁぁ~。ちょっと疲れっちゃったな~」
「そう?このままだったら撮影開始に間に合うからちょっとゆっくり歩こうか」

私がポツリと呟いた言葉を拾ってそう言ってくれるミズキ。

「ありがとう」

そう言いながらペースを緩める私に歩幅もペースも合わせてくれるミズキは今日一番優しく感じた。

「もし遅れちゃったら一緒に怒られよ?」

そう言っていたずらっ子のように舌を出して笑うミズキは、まだ少年のあどけなさが残っていて、どことなくかわいい……かも。
まだ私の一個上の高校二年生で、年頃の男の子なんだなということも感じさせる。

「う~ん、でもマネージャ―さんのせいにするのもいいか。新人のくせに~!って怒られてるのも面白そうだし」

前言撤回!ミズキに優しさもかわいさも、何の欠片もない!
あと、毒舌にプラスで性悪も追加!!

「あれ~?どうしたの?硬直しちゃって」
「何でもないですぅ~。ていうかミズキのせいです!」
「何がかわかんないかな~」

意地悪にそう言うミズキとギャイギャイ言い合いながら出版社に戻る帰り道は、とても温かく感じた。