こんにちは、推し様

ビルを出て十数分歩くと、駅前の大きめなデパートが見えてきた。

ここまでミズキと並んで歩いてきたけど、変装が本格的過ぎてかばれていない。

だってさ!ロングヘアのウィッグかぶってその上に帽子かぶって、女の子っぽいメイクを軽くしてるんだよ⁉
確かに童顔でかわいらしい顔のミズキは女の子に変装しても違和感ないけどさ……女として負けた気がする……。

そんなことをしょんぼり考えていると、ミズキに「マネージャーさーん?早くしないと置いてくよ?」と冷たく突き放すようにそう言われた。

「ごめんなさい!今行きます!!」

そう言って急いでミズキの元に行こうとすると、近くにあった段差に足を引っかけてしまう。

ヤ、ヤバ、転ぶ、!!

そう思い、目をぎゅっとつむり、少しでも痛みを和らげるために学校の授業で習った柔道の受け身を取ろうとした。

でも、一向に痛みは走らなかった。

その代わりに、温かいものにふわっと包み込まれる感覚がした。

そっと目を開けてみると……なんと!ミズキが私のことを支えてくれていた。

ミズキの整ったかわいい顔が私の目の前にドアップで現れる。

「ひ、ひぎゃぁっ!」

驚きすぎて、つい変な声を出してしまう。

「あ、それはごめん」

ミズキは私の手を掴んだまま少し距離を取ってくれた。

「あんた危なっかしいから、このままでいるか僕の服のどっか握っておいて」
「服にします!」

恥ずかしいので!と心でそう付け加えてそっとミズキの服をつかむ。

「ぶっ!なんでそこ勢いいいの~」

あっ、笑ってくれた!ミズキが笑った……奇跡だ!

そんなことを思っていると、「ぼさっとしてると置いて行くし、手、服から離れちゃうよ?」と意地悪に言われた。

元の毒舌に戻っちゃったなと思いながら急ぎ足でミズキの横に並んだ。