プリンセスティティンの宝石たちにおねがい!

 つぎの日の夜。
 カモメがなくのをやめ、月が空のてっぺんにのぼるころ。
 ティティンたちはやっと、ゲマ王国の港町につきました。
 しかし、ぶきみなほど、ひとかげが見えません。
 港で、魚をたべていたミケネコに、話を聞くと、しっぽをうごかしながら、こたえてくれました。
「あの、この国の人たちは、いったいどこに?」
「みんな、ゴーレムがこわいんだってさ。家にとじこもっちゃった」
「ユヴェールっていう、勇者が来たはずだけど……」
「勇者さまなら、ゲマ城のうらにあるツキカゲ森に入ってから、出てこないよ」
「……そんな!」
 ティティンは、ルナのせなかに飛びのると、ツキカゲの森へと急ぎます。
 ツキカゲの森は、しんと、しずまりかえっていました。
 木々のあいだを、宝石のような青いチョウチョが、たくさん飛んでいました。
 月明かりのような、青いチョウチョたちは、ひらひらと森をいろどっています。
「モルフォチョウというチョウチョです。ツキカゲの森の魔法使いが育てているんです」
 ルナが、かたい声でいいました。
 おくへ、おくへと、ルナのせなかにのって、すすんでいきます。
 やがて、ひらけた場所へ出ました。
 広場のようになっていて、あわい月光が、広場をしずかに、てらしています。
 すずやかな風がふきぬけ、ティティンのほほを、なでていきました。
「ティティンさま。あれ!」
 ルナがいう先を見ると、地面にユヴェールがたおれていました。
 ティティンは、いそいでかけつけようとしました。
 しかしとつぜん、ユヴェールのまわりの地面が、ぼこぼことわきあがりました。
 地面から、ずずず……と、ゴーレムがあらわれたのです。
 ユヴェールがゴーレムの肩に、のってしまっています。
 これでは、すぐにたすけることができません。
「ちかくに、魔法使いがいるかもしれない……!」
「魔法使いなら、ここにいるぜ」
 ゴーレムの足もとに、黒い服を着た、あやしげな男の子が立っていました。
「あなたが、魔法使い?」
「おれは、ツキカゲ。この森に、何百年も住んでいる、魔法使いだ」
「ユヴェールに何をしたの?」
「何って、こいつに、きゅうにおそわれたんだ。だから、ゴーレムがおどろいた」
 ツキカゲは、あきれたように、肩をゆらします。
「するととたんに、こいつがおこりだしてな。ゴーレムに緑色の宝石をふみつぶされたとか、なんとかいって。まあ、ゴーレムにかえりうちにされたが」
「……ユヴェール」
 ティティンは、自分があげた宝石のせいで、ユヴェールは負けてしまったのかもしれないとおもいました。
 ユヴェールをたすけるため、ティティンはゴーレムを、そしてツキカゲを見すえます。
「ツキカゲ。これ以上、みんなにひどいことをするのは、やめて」
「……ひどいこと、か」
 ふっと、ツキカゲは、かなしそうにいいました。
「おれは、何百年もまえから、このゲマの国に住んでいる。だから、だれよりも、この国がすきだぜ」
「じゃあ、どうしてゴーレムをつかって、あくじをはたらいているの?」
「あくじをするのは、どっちだ!」
 ツキカゲは、さけびます。
「ゴーレムのすがたを見て、みんながかってに、おびえているだけだ」
「え?」
「ゴーレムは、やさしいモンスターだ。なのにゴーレムを見て、すきかってに、こわいものだと決めつけたのは、むこうのほうだ。しだいに、おれが町へ行って、買い物をしようとしても、誰もなにも、売ってくれなくなった。だから、ゴーレムが、腹をすかしたおれのために、たべものを……」
 つらそうに話すツキカゲに、ティティンは、むねがしめつけられるおもいでした。
「……わかった。わたしに、まかせて」
「え?」
 首をかしげるツキカゲに、ティティンは両手をくみます。
「いま、この国にひつような宝石を——!」
 ティティンのいのりにこたえるように、モルフォチョウたちが、月光のようにきらめきます。
 むすうのモルフォチョウたちが、たすけあうようにひとつとなり、夜空へと飛んでいきました。
 夜のともしびのような星々をなぞり、モルフォチョウたちは海色の光となって、ゲマ王国へとふりそそぎます。
 その光を見つめていると、しだいに心があたたかく、おだやかになるのでした。
「あの光は……?」
 ツキカゲが、ふしぎそうに目をまたたかせます。
「トルマリンという宝石だよ。希望という願いがこめられて……」
「そんな宝石のちからなんかで、なにができるっていうんだよ!」
「ツキカゲ」
 ティティンは、ツキカゲの手をちからづよく、にぎりました。
「町へ行こう。いっしょに」
 ティティンは、ルナにユヴェールをまかせます。
 そして、ツキカゲの手を引いて、ゲマの港町へと走りだしました。

 ゲマの港町では、とつぜん降ってきた、きれいな光を人々が見ていました。
 男の人が、ティティンとツキカゲに気づき、かけよりました。
「あなたは、ビジュー王国のティティンひめ? どうして、ゲマ王国に」
「勇者ユヴェールとともに、魔法使いツキカゲに会いにきました」
 すると、しだいに人々があつまってきて、口々に「おお」と、声をあげます。
「ツキカゲがあやつっている、ゴーレムをたおしにこられたのですね」  
「いいえ」
 首をふるティティンに、人々も、ツキカゲもぽかんとしてしまいます。
「では、いったい……?」
「魔法使いツキカゲとゴーレムと、ともだちになりにきたのです!」
 そのひとことに、まわりはびっくりして、おおさわぎ。
 すると、プリンセス・ティティンが大きく手をあげ、いいはなちます。
「せいしゅくに!」
 シーン、としずまりかえった人々に、ティティンはにっこりとわらいます。
「魔法使いツキカゲのゴーレムは、とてもやさしいモンスターです。このわたしがしょうめいします。この、ミケネコが食べている魚も、あなたがたが家から出てこないから、ゴーレムがとってきてあげたものなのですよ……ねっ?」
 魚をたべおわったミケネコは、ぷっくりふくらんだお腹を見せながら、こくりとうなずきました。
「まったくだにゃー」

 ぶじ、ごかいがとけたツキカゲとゴーレムは、町の人々に、たべものをとったことをあやまることができました。
 そして、ルナの呪いのことも。
「ツキカゲ。どうして、ルナをうさぎに変えちゃったの?」
「ルナは、おれが飼っていたドラゴンだ。ただ、一年前にゲマ王国の人々をおそおうとしたから、呪いをかけて、魔法でビジュー王国に飛ばしたんだ」
「ルナってば、どうしてそんなことを」
 すると、ルナはふてくされたようにいいました。
「ふん。ツキカゲは、やさしすぎるんです」
 ツキカゲはほほえみながら、ルナの鼻さきをやさしくなでてやりました。

 そして、ユヴェールに宝石をこわしたことも、あやまりました。
 すると、ユヴェールがいいます。
「ティティンさま。どうか、わたしにまた、宝石をさずけてくださいませんか……?」
 つづけて、なぜかツキカゲも、手をあげました。
「おれにも! おまえが作ってくれた宝石がほしい」
「そんな、わがままのようなねがい、ひめさまが宝石をさずけてくれるものか」
「なんだと?」
 ケンカがはじまりそうな空気に、ティティンがこまったように、ルナを見あげます。
「こんな今日には、どんな宝石がふさわしいだろうね?」
 ルナは、あきれたようにわらいます。
「宝石たちに聞いてみましょう」

おわり