そして、母は後悔した。

――1年前の自分の誕生日。

娘からiPhoneをプレゼントされた。

きっと相当なお金がかかっただろうと、そればかりが気になった。

その時、娘は「誕生日やし、ご飯行こ」と誘ってくれた。

けれど、金銭面のことで口論になり、その予定は白紙になった。

母は、高価なものをもらった後で、さらに食事まで奢らせるのは申し訳ないと思ってしまい、つい言ってしまった。

「ご飯も奢ってくれるつもりやったら、行かへんから」

娘からの返事は、短く、一言だけだった。

『じゃあ行かへん』

それきり、娘からの連絡は途絶えた。

母が何度LINEを送っても、電話をしても、既読すらつかないし、電話も出ない。

そのまま一年近く、娘とは一言も言葉を交わすことも無ければ、顔を合わすこともなかった。

あの時、余計なことを言わなければ。

何も考えず「ありがとう」と笑っていれば。

今日も連絡を取り合っていたかもしれない。

今日も母と娘として、向き合えていたかもしれない。

涙が目尻からこぼれ、走る風に流される。

それがアスファルトに落ちていくのが見えた。

実家までの道のりは、これまでの人生で、何よりも長く感じられた。