娘の派遣会社との通話を切ったあと、父親は警察へ連絡した。
受話器を置くと、ふらつく足で一階へ降り、玄関のドアを限界まで開け放つ。
遠くからサイレンの音が近づき、次第に大きくなっていく。
裸足のまま、呆然とその場に立ち尽くしていた。

頭は混乱していたが、これは現実だと何度も自分に言い聞かせる。

やがてパトカーが停まり、降りてきた二人の警察官が声をかけてくる。

「大丈夫ですか?お嬢さんは、どこに?」

「……二階の寝室にいます」

やけに冷静な口調で答える父親は、彼らを二階へ案内した。

その後、発見した時間や経緯、交友関係、最近の様子について質問が続く。
しかし父親は、娘のことを何も知らなかった。
答えられたのは、勤務先と年齢、誕生日だけだった。

やがて検視が始まり、家の前には人だかりができる。
次々とパトカーが到着し、サイレンを鳴らしては止まり、父親に名乗って家に上がっていく。

風の音も人の声も、警察官や救急隊の足音も、耳には届いている。
だが視界だけがぼやけ、現実感が遠のいていった。

困惑の中で、別居中の妻、娘の母に連絡すべきだと考える。
しかし、三年前から音信不通で、連絡先も居場所もわからない。
ただ、この事実を知れば、彼女はきっと絶望するだろう。
父親は息をのんだ。