校舎の屋上は午後の柔らかな陽射しに包まれ、静寂が支配していた。初夏なのにも関わらず、遠くの街並みが霞むほどの熱気が立ち込める中、黒崎(くろざき)蒼(あお)は手すりに肘をつき、ぼんやりと空を見上げていた。


「ねぇ、蒼、どうしちゃったの？」

背後から聞こえる声。それに合図するみたいに、初夏の風が吹き、蒼の黒髪に一筋入った金色の髪と一緒に、瞳も揺れた。

「別に、なにも変わってないだろ。昔からこんな感じだった。」

「嘘だよ。私が知っている蒼は、もっと明るかった。」

そう言って、彼女ー波野(なみの)青月(せづき)は切ない感情を瞳に映した。

そんな青月は昔から何も変わっていない。
まっすぐな性格も、雰囲気も、少しだけ青くて、真っ黒な瞳も、さらさらと揺れる髪も。

突然の再会に、胸が高鳴った。
優しい言葉をかけてあげたかった。

だけど、今も蒼の口から出るのは、どこまでも冷たい言葉。まるで、誰かと壁を作っているかのような。

青月はそっと蒼の隣に腰を下ろした。夕暮れの光が、青月の輪郭を縁取る。

「ねえ、私は、蒼がどんなに変わっていても、あの頃と気持ちは変わらないよ。」

まっすぐな声に泣きそうになった。でもいまさら、どうすれば正解なのだろう。
もう一度風が吹く。もう一度、蒼の瞳が揺れた。