その日、紗夜は職場からの帰り道に、悠真から小さな紙袋を渡された。
「GPSタグ。キーホルダーになってるから、鍵につけて。何かあったら、すぐ連絡くれ」
「……こんなことまでしてくれるの?」
戸惑いながらそう聞いた紗夜に、悠真は優しく微笑んだ。
「怖いときは、誰かに頼っていい。俺はお前を守りたいって、そう思ってるだけだから」
胸がぎゅっと締めつけられる。これまで、恋人にそんな言葉をかけてもらったことはなかった。いや、むしろ、「お前が悪い」「黙っていろ」と押し込められ続けた。
なのに、悠真は違った。
それが心を揺らす。けれど、まだ決心はつかなかった。
しかし、夜――決定的なことが起きた。
「どこに行ってたんだ?」
部屋に帰るなり、直哉が低い声で詰め寄ってくる。彼の目には、疑いの色と怒りの炎が混じっていた。
「……会社の人と、少し残ってたの」
「どうせあの幼なじみだろ?」
彼の手が頬を打つ。
音が、部屋に響いた。
泣くことも怒ることもできなかった。ただ、ただ、紗夜は冷めた目で彼を見つめていた。
――ああ、もう限界だ。



