さよなら、痛みの恋 ― そして君と朝を迎える




 コテージに戻り、風呂上がりの濡れた髪をタオルで乾かしてくれる悠真に、紗夜はこそっと囁く。

「ねえ……旅が終わっても、毎日こうして一緒にいてくれる?」

 タオルの手が止まり、鏡越しに目が合った。

「終わらないよ。この旅は、結婚っていう“人生の旅”の、はじまりだから」

 ドキンと心臓が跳ねる。

「これから何十年一緒にいても、俺、ずっとこうして、紗夜に恋してると思う」

「……じゃあ、私も、毎日恋し返すね」

 その夜、初めてふたりで迎える“旅先の夜”。
 指輪が光る左手を握りながら、どちらからともなくキスをした。

 波の音、遠くの虫の声、体温。
 すべてが、恋の続きを紡いでいた。

 

 旅は、終わる。けれど――恋は、続く。

 

「ただいま」
「おかえり」

 新婚旅行から帰ったその日も、いつもの家で。
 ふたりはまた、恋を始めていた。