「そろそろ、限界かもしれないな」
「限界って……」
「俺はもう、隠したままじゃいけない気がしてる。いつまでも結衣を“誰かの目”から守ってあげられない。だから、俺と一緒に、ちゃんと向き合ってくれないか」
——「ちゃんと向き合う」
その言葉が、結衣の胸にまっすぐ刺さった。
ふと、彼女の脳裏に、学生時代のある記憶がよみがえる。
恋人と呼んでいた彼に裏切られた日のこと。
彼がクラスの女子と手をつないで笑っていた姿。
「アイツ、ちょろいよ。優しくすればすぐ落ちるし」
笑いながら話していた声が、何度も耳の奥でこだました。
だから、恋愛は怖かった。自分をさらけ出すことは、踏みにじられることだと思っていた。
けれど、目の前にいるこの人は——
「私、佐伯さんにだけは、本当のことを話したい」
「結衣……」
真尋がそっと彼女の手を取った。
誰もいないロビーの片隅。彼はゆっくりと、彼女の額に唇を落とした。
「俺は、結衣の過去も全部知りたい。怖いことも、不安も、嫉妬も、全部」
「……それでも、私のこと、好きでいてくれる?」
「当たり前だろ」
その言葉に、結衣の目から涙がひとしずく零れた。
——ああ、私はこの人に出会うために、あんなに傷ついたのかもしれない。



