「……もうすぐ俺、異動になるかもしれない」
「え?」
結衣の手が止まる。
「海外事業部。まだ内示だけど、たぶん決まる。……だから、結衣とちゃんと話したくて」
彼女の胸の奥で、何かが音を立てて崩れていく。
「結衣が嫌じゃなければ……異動前に、ちゃんと、付き合ってるって言いたい。もう、隠れなくていいようにしたい」
その言葉は、ずっと欲しかったはずのものだった。
けれど、同時に怖かった。公にすることで、何かが変わるのではないかと。
だが、結衣はゆっくりと視線を上げた。真尋の瞳に映る自分の姿を見つめる。
「……私、変わりたい。逃げるの、やめたい」
「うん」
二人の手が、机の下で静かに重なった。
まだ、誰にも知られていない恋。
二人は、誰にも知られたくない関係だった



