春が終わり、初夏の風が街に吹き始めた頃——秋山結衣は、社内の昼休みに小さな決意を胸に立ち上がった。
向かったのは、総務部の一角。ドアをノックし、呼吸を整える。
「失礼します。私、佐伯課長とお付き合いしています。……社内規定に則って、報告をさせていただきます」
その場にいた課長は一瞬驚いた表情を見せたものの、すぐに穏やかな笑みを返した。
「……勇気を出してくれて、ありがとう。彼から聞いているわ。幸せにね」
ほんの数ヶ月前まで、“隠しているほうが楽”だと思っていた結衣が、今こうして自分の想いをまっすぐに伝えられていることに、自分自身が一番驚いていた。
その日の午後、画面越しに真尋に報告すると、彼は子どものように嬉しそうな顔を見せた。
「やったな、結衣。……これで本当に堂々とした恋人だ」
「うん。これからは、秘密のままじゃなくていい」
そう言いながら、結衣の胸はあたたかく満ちていた。



