人波の中、秋山結衣は、いつもより少しだけ厚着をして立っていた。
春の陽射しが柔らかく差し込む到着ロビー。
その人混みの向こうから、彼が、ゆっくりと現れた。
スーツ姿の真尋。疲れが見える表情の奥に、たしかにあった。あの、変わらない優しい瞳。
「結衣」
「……おかえりなさい」
たったそれだけの会話だったのに、胸の奥に、じわりと何かがにじんでいく。
再会の瞬間、二人は言葉を交わすより先に、抱きしめ合った。
何も言わなくても、すべてが伝わった。この距離が、どれだけ長く感じたか。
「話そう、いろいろ」
そう言って手をつなぎ、真尋はタクシーに彼女を乗せた。向かった先は、彼が予約していた小さなホテルだった。海沿いの落ち着いた場所。窓からは、午後の陽射しを浴びる青い波が見えた。



