出発の朝は、驚くほど晴れていた。
空港ロビーで並んで立つ二人。けれど、それぞれの心には、まだ晴れ切らない靄が残っていた。
「本当に、行くんだね」
「うん。でも、これはチャンスなんだ。……俺にとっても、結衣にとっても」
真尋のスーツケースのタグには“Singapore”の文字が揺れていた。
結衣は彼を見上げた。いつもの優しい瞳。でもその奥に、やっぱり少し不安が見え隠れしていた。
「……浮気しないでね」
小さな声で言ったその一言に、真尋は目を丸くして、すぐに微笑んだ。
「しないよ。そんなこと、するわけないだろ」
「わかってる。わかってるけど……離れるって、それだけで、ちょっとこわいんだ」
「大丈夫。俺たち、ちゃんと繋がってる」
真尋が彼女の頬にそっと手を添えて、額にキスを落とした。
「行ってきます。……愛してる」
「いってらっしゃい。……私も」
その言葉を口にしたとき、結衣の胸にぽっとあたたかい光が灯った。怖さよりも、信じたいという気持ちの方が、ほんの少しだけ強かった



