「……ねえ、秋山さん」
また彼女の隣に現れたのは、営業部の千葉美里だった。例の“探りを入れてくる女”だ。
「さっき、課長と二人で資料室にいたでしょ? あれ、ちょっと距離近すぎたんじゃない?」
「え……?」
「まあ、勘違いだったらごめんなさい。でも、気をつけた方がいいよ。ああいうの、他の人も見てるから」
ぐさり、と心に刺さる一言。
(見られてた……?)
その日の夕方、結衣は恐る恐るプロジェクトルームに向かった。真尋は既にそこにいて、背を向けて資料を整理していた。
「……今日、千葉さんに、言われた」
「何を?」
「資料室で、距離近かったって……他の人も見てるかもって」
真尋は動きを止め、しばらく黙っていた。
「……そろそろ、潮時かもしれないな」
「え?」
「結衣との関係を、隠すことに疲れた。堂々と好きって言いたい。でも、それで君の立場を悪くしたくない。……本当に悩んでる」
その言葉は、彼なりの守り方だった。きっと、そうやっていままでも守ってくれていたんだろう。
「真尋さん、私……もう逃げないって決めた。たとえ噂になっても、それが本当なら、もう嘘つく必要なんてないよ」
「結衣……」
ふたりは小さな机越しに、手をそっと重ねた。
そこに、ノックもなく扉が開いた。



