秘密のままで、あなたと。




 ***


 その夜、人気のないプロジェクトルームで二人きりになった。


 「……来月から、シンガポール勤務になった」


 真尋が静かに言うと、結衣はそっと頷いた。


 「わかってた。でも、実際に聞くと……やっぱり寂しい」

 「俺もだよ」


 しばらく沈黙が続いた。
 やがて真尋が、遠い目をしながら言った。


 「……俺、実は昔、婚約してたことがあるんだ」

 「えっ……?」

 「三年前。大学の後輩。結婚寸前までいったけど、突然彼女が『あなたの人生の中に私がいない』って言って、去ってった」


 彼は無表情で、続けた。


 「たぶん、俺……誰かを心から信じるってことが、できてなかった。親が不仲だった影響もあると思う。だから、“失う前提”で関係を築くのが癖になってた……だけど、結衣と会って、変わったんだ」


 結衣の胸に、あたたかくて痛い感情が湧きあがる。