【短編】わたくしの婚約者になってください。

「リオさま。――わたくしを、描いてみる気はないか?」
「――えっ?」
「あなたに、わたくしを描いてほしい。このロザリンド・ノーラ・ウェイドの美しさを、絵画に残してほしいのだが……」

 自分のことを『美しい』と口にするのは、少し気恥ずかしい。

 だが、わたくしは自分のことを『美しい』と思っている。

 お母さま譲りの顔立ちとハニーブロンド。

 お父さま譲りの空色の瞳。

 そしてなにより――……領民たちを守るために鍛え上げた身体。

「わたくしはウェイド公爵家の一人娘。いつかは必ず結婚し、子どもを産む義務がある。だが、その前にこの姿を残したいと……そして、描いてもらうなら、きみが良いと思っていた」

 あの『ウェイドの女神』を美術館で一目見たとき、強く惹かれた。

 あんなに繊細な筆使いで描かれた絵画に心を打たれ、この人に自分のことを描いてほしいと切望した。

「……どうして、それを描いたのが僕だと気づいたのですか?」
「あんなに繊細な絵、きみ以外描けないさ」

 ふふ、と花が(ほこ)ぶように笑うと、リオは目を大きく見開き、それから後頭部に手を置く。

「僕の絵を、覚えていたんですね」
「記憶力には自信があるんだ」

 目を細めて、穏やかなまなざしをリオに注ぐ。彼は後頭部に置いた手を下ろし、まっすぐに向かい合った。

「もう、覚えていないかと……」
「そんなに薄情ではないさ。……ここ数年、魔物から領民たちを守るために奮闘していたのは、知っているだろう?」
「それは、まぁ。プリエ騎士団の活躍は、いつも耳に届いていましたから」

 デインズ領とウェイド領は、正反対の場所にある。

 それなのに、なぜわたくしがリオと面識があるのか――……。