【短編】わたくしの婚約者になってください。

 社交界に顔を出すよりも、己の剣術を磨くほうを選んだお母さま。

 ――わたくしは、そんなお母さまに憧れている。

 そんなお母さま、昔からお転婆だったらしく、お父さまに口説かれてからも剣術を続けていた。

 というよりも、お父さまがお母さまに剣術を教え、気づけば彼の強さに惹かれた――……と、何度同じ話を聞かされたことだろうか。

 両親の惚気話を何度も、暗記するくらい聞かされるこちらの身にもなってほしい。

 何回も、何十回も、何百回も同じ話をされるのだ。

 もうすべて暗記してしまったので、聞き流すようにはしているが、話し出すと長いのだ、あの二人。

「さて、と……」

 辺りを見渡して、目的の人を探す。

 この場にいないので、別の場所を探そうと廊下に出た。

 リオがいないのなら、ここにいる理由もない。

 広間を出てリオを探している途中、彼がぼんやりと窓の外を眺めている姿が視界に入る。

「リオさま」

 緩やかに、彼が振り返った。

 驚いた様子もないので、わたくしの足音が耳に届いていたのかもしれない。

「――今日は満月ですね」
「――そうだな、見事な満月だ」

 空を仰いで二つの月を眺める。

 寄り添い合うような二つの満月は、淡い光で辺りを照らしていた。