【短編】わたくしの婚約者になってください。

「……まるで、翼をもいだような傷痕ですね」

 自身の上着を脱いで、そっとわたくしの肩にかけるリオに、顔を上げる。

 袖を通してみると、ぶかぶかだ。これは男女の身体の違いなのだろうか。

「今日のパーティーに参加したということは、わたくしに興味があると思っても?」

 上着を抱きしめるようにぎゅっと握り、リオと視線を合わせる。

 ――そのときの彼の表情を、きっとずっと忘れない。

「許されるのなら、あなたのことをずっと描きたいと思っていました」

 リオは、とても優しい笑顔を浮かべていた。学園で見たことのない表情だったので、ドキリと鼓動が跳ねた。

「……『ウェイドの女神』を描いたのに?」
「あれは……あんなふうに士気を高めるのかと思って……想像で描いたものなので」

 彼の中の自分はいったい、どんな人物なのだろうか。

 あの絵画のような、凛々しくも美しい乙女だと思ってくれているのか、興味が出てきた。

「しっかりとあなたを見て、毎年新しい絵を描きたい」

 真摯(しんし)なまなざしに、こちらのほうが照れてしまう。

 きっと今、顔は真っ赤に染まっているだろう。だって、頬が熱い。

「――それがどういう意味か、わかっているのだな?」
「もちろん」

 わたくしの肩に、彼の手が添えられる。

 ゆっくりと目を閉じてリオの体温を感じていると、「あ」と彼の声が降ってきた。

「どうした?」
「空、すごいですよ」

 目を開けて空を確認すると――……大量の流れ星が、まるでわたくしたちのことを祝福するように、夜空を駆けていた。「流星群」と、言葉が重なり、思わず見つめ合う。

「……リオ・デインズ侯爵令息。わたくしの婚約者になってください」
「喜んで。ロザリンド・ノーラ・ウェイド公爵令嬢」

 ――流星群に見守られながら、その日、わたくしたちは婚約者になった。