少し気分転換にここにいたら? と言われ、一彩は常連さんたちに言われるがまま、赤いレトロなチンチラ張りの椅子に寝て、おじさんたちのカラオケを聴いていた。
「これ、後から思い出したら、莫迦みたいな喧嘩ですよね」
と呟く。
「今この瞬間も、莫迦みたいだとは思ってるぞ」
と相変わらず辛辣なことを言いながらも、彰宏はそっと一彩の髪を撫でてくれた。
つわりがひどくて、人から見たら、禍福の禍かもしれないけど。
課長がやさしいから、私には、福福だ。
いや、今、おさまってるからそう思ってるだけかもしれないけど。
またひどくなったところに、カレーヌードルなんて作られたら、
「……殺害したくなるかも」
と呟いて、
「なにがっ!?」
と彰宏に叫ばれ、樹海のママたちに笑われる――。
完



