「渡そうかどうしようか、迷ってるんだけど。
それ以前に課長に出会えないのよ」
昼休みが終わる頃、廊下で再び出会ったすみれに、一彩は言った。
「家で渡したら?
っていうか、やっぱり課長に渡すのね」
とロッカールームから出てきたすみれは、ポーチを手に言う。
一彩は、ぎゅっとチョコの包みを握って言った。
「……だって、カエサルのものはカエサルに返さなければ」
「なにそれ、早口言葉?」
「あっ、課長っ」
廊下の向こうを彰宏が小田と歩いているのが見えた。
だが、こちらに気づいた彰宏は何故か早足にいなくなる。
――おのれっ。
何故、逃げるっ!



