白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。




「待て待て待て待て!」

 目を白黒させる紫陽の代わりに叫んだのは、主人に命じられて今まで静かに成り行きを見ていた赤髪の妖だった。


「何の冗談だ? 自分のこと殺しに来たこの女を、嫁に!?」

「俺が陰陽師ごときに殺されるわけがないだろう」

「実際殺されるかどうかじゃない。明確に敵意持ってるのが問題だろ! それに、そもそも主にはあいつが……」


 狗神は、赤髪の妖が反対する声を華麗なまでに無視して、白くしなやかな手をまっすぐ紫陽に差し出した。


「俺の元へ来い」

「……何故」

「……」


 答えが返ってこない。狗神はただ黙って、手を差し伸べ続ける。

 疲労感でほぼ回らなくなった頭で紫陽は必死に考える。


(私を殺さず、それどころか花嫁にする……その利点はいったい何?)


 まさか、戦ううちに紫陽に惚れた……なんてことはないだろう。人を惹きつける容姿でないのは自分でも知っている。

 だとしたら……。


(人質? 私を手元に置くことで、涼風家への牽制になると思った?)


 それが可能性として高いような気がする。

 しかし残念ながら、涼風家にとって紫陽は人質にはなり得ない。「紫陽を殺すぞ」と脅しても「はいどうぞ」という答えしか返ってこないだろう。

 とはいえ、狗神はそんなことを知るはずもない。ならば紫陽はどうするべきか。