響け!月夜のアジタート

少年が「本の修繕」と言うと、アントーニョは気まずそうに目を逸らした。レオンハルトの大切な本にアントーニョが昨日、インクを溢してしまったのだ。

「カナタ、おはよう。本の修繕ありがとう」

カナタ・セイネは東洋出身で壊れたものの修繕・人の怪我を治す異能力を使うことができる。カナタの頭を撫でてレオンハルトが自身のデスクを見ると、カナタが直してくれた本が置かれていた。

「レオンハルトさん、その本お好きですよね。「名探偵セドリックシリーズ」!」

「ああ。この小説に出会ったことがきっかけで、私は探偵になりたいと思ったんだ」

修繕された本をレオンハルトは優しく撫でる。名探偵オスカーシリーズとは、探偵のセドリックが助手のハリエットと共に難事件を次々に解決していく物語シリーズである。しかし、この小説の作者は不明。シリーズも途中で突然発行されなくなり、未完結のまま終わってしまった。

「最後に発行された「眠れる海の秘密」の答え合わせがされないままなのが残念だ」

「どんなお話なんですか?」