響け!月夜のアジタート

「素晴らしい楽器の演奏が台無しだ」

レオンハルトの顔から表情が消える。獣人は人に殴り掛かろうとしていた。人の顔が真っ青になる。レオンハルトは二人の間に割って入った。

「この方があなたに何かしたんですか?」

杖を向けてレオンハルトは訊ねる。獣人は一瞬戸惑った様子を見せたものの、すぐにその顔に下卑た笑みを浮かべた。

「別に。ただ同じ道を歩いていただけだよ。人間が視界に入り込んでいるのが鬱陶しかっただけだ」

獣人の答えにレオンハルトの目が鋭くなる。差別は決して許されるものではない。

「……この方はあなたに対し、口も手も出していない。だがあなたは手を出した。誰かに暴力を平気で振るえるのは強いからじゃない。自身が弱いからだ」

レオンハルトがそう言うと、獣人の目が怒りに染まる。顔は赤くなり、拳を強く握り締めた。

「ちょっと魔法が使えるだけで偉そうに説教垂れてんじゃねぇぞ!!お前からぶっ殺してやる!!」