静かにこぼれる言葉に、ここねはそっと近づいた。
「ねえ、名前……聞いてもいい?」
「……うららです」
「うららちゃん。よかったら、このえんぴつ、使ってみてくれる?」
ここねが手渡したのは、自分で作った『つぼみえんぴつ』。
「少しずつでも、“今の気持ち”を言葉にできたら、
それがいつか、ちゃんと花になる。
そう信じて、わたしも使ってたんだ」
うららは、驚いたように目を見開いた。
「……店員さんも、使ってたの?」
「うん。わたしも、自信なんてなかったから。
でもね……誰かの背中を押したり、誰かに助けられたりして、少しずつ歩いてこられたの。
今のうららちゃんの気持ちも、絶対、大事な一歩になるよ」
小さく頷いたうららの頬に、そっと微笑みが浮かんだ。
「ありがとう。……あの、ここに来れてよかった」
お店の扉が閉まる直前、うららは振り返って言った。
「わたしも……誰かの力になれる人になりたいな」
「きっとなれるよ」
ここねはその言葉に、胸の奥があたたかくなるのを感じた。
大丈夫。きっと、あなたも魔法をつなげていける。
チリン。
扉の鈴が、最後の音を立てた。
その音が寂しくもあり、誇らしくもあった。


