魔法文具屋《パレット》の店番最終日。
誰もいない静かな店内。
棚に並んだ文房具たちを見回して、ここねはふと立ち止まった。
「……そういえば、わたし、自分には何も渡してなかったな」
お客さんひとりひとりの悩みに向き合い、魔法文具を選んできた日々。
だけど、自分の悩みには、まだちゃんと向き合ってなかった気がした。
——“しっかり者”って思われるけど、ほんとは不安だらけ。
——“いい子”って言われるたびに、演じてる自分が苦しくなる。
心の奥には、誰にも言えずに閉じ込めてきた、弱い自分がいた。
「……わたしに、今いちばん必要な文房具って、なんだろう?」
手が自然と、引き出しの奥に伸びた。
そこには、ここねがにつくった文房具があった。
それは、薄い桜色をした、1本のえんぴつ。
『つぼみえんぴつ』
書いた言葉が、“じぶん”にすこしずつ染みこんでいく。
——まだ小さなつぼみでも、育て続ければ、きっと花になる。
ここねはゆっくりと、そのえんぴつを手に取った。
紙を一枚用意して、そっとペン先を乗せる。
そして、書いた。
「わたしは、わたしを、だいじにしていい」
書いた瞬間、胸の奥にあった重たい何かが、ふわりとほどけていくのを感じた。
涙がこぼれそうになったけど、不思議と笑顔がこぼれた。
胸の中にぽかぽかとした温もりが広がっていった。
——あのとき悩んでいた、みのりちゃんも。
——夢に迷ってた、女の子も。
——自信がなかった、あの子も。
——わたしがちゃんと、魔法を届けられたんだ。
「……だから、わたしにも、ちゃんと渡してあげよう」
つぼみえんぴつを胸にしまいながら、ここねは微笑んだ。
これからのわたしが、どんな未来に進むかは、まだわからない。
でも今なら、少しだけ、信じられる。
——きっと、大丈夫。
——だって、“わたし改革”は、もう始まってるから。


