夜の「パレット」は、いつもと変わらず、やさしい光に包まれていた。
店長と一緒に、雑談をしながら文具たちを片付ける。
だけど寂しそうな店長の声が聞こえた。
「ここねちゃん、お店ね……明日いっぱいで、一旦おしまいにすることにしたんだ」
「え……?」
手に持っていたマスキングテープを落としそうになる。
「おしまい……? わたしの店番が終わり、って意味じゃなくて?」
「うん。でも、“なくなる”っていうより、“次の場所に行く”って感じかな」
店長は、優しい目で店内を見渡す。
「パレットはね、“悩んでる誰か”がたくさんいる場所に現れて、そこにいる間にその人たちが少しでも前に進めると、ふわっと移動するの。私が決めてるわけじゃないんだ。不思議だけど、そういうお店なの」
「じゃあ……わたしと出会えたのも……?」
「そう。たぶんね、ここねちゃんに出会うためだったんだと思う」
店長はそう言って、ここねにそっと一冊のノートを差し出した。
それは、ここねがこのお店で出会った文房具たちの、すべての記録だった。
「ここねちゃんがこの場所で出会った人たちは、ちゃんと前に進んでるよ。
あなたの言葉と、あなたが選んだ文房具が、ちゃんと魔法になったんだね」
ここねの目に、ぽろりと涙がこぼれそうになる。寂しさと感謝が入り混じって、胸がいっぱいになった。
「……でも、さみしいです。急にそんなの、ずるいよ……」
「うん。私も、さみしいよ。でも、きっとまた“必要な人”のところに行かないとね」
店長は優しく笑った。
「ここねちゃんの魔法は、もう、ちゃんと“自分の中にある”ってこと。
卒業って、そういうことなんだと思うよ。
自分の魔法を信じて、新しい一歩を踏み出すこと。」


