放課後、黒瀬くんが空翔くんと廊下で言い合いをしているのを見かけた。
あの2人、あんなに仲良く(?)なったんだ。
以前はピリついていたのに。
「あんたほんと子どもっぽい!」
「じゃあ、先輩はもっと大人になってくださーい!」
「おい、それ皮肉だろ!」
2人のやりとりに、周りがくすくすと笑った。
黒瀬くんはちょっと顔をしかめながらも、口元がふっと緩んでいた。
空翔くんが、まっすぐぶつかっていくからこそ、
黒瀬くんも、少しずつ壁をゆるめていったのかもしれない。
そんな2人は、ここねが見ていることに気がついた。
「あ、ここねせんぱーい!」
「君に懐いてるこの後輩、すごいムカつくんだけど」
急に名前を呼ばれてびっくりしながらも、思わず笑ってしまった。
その笑顔が伝染したのか、黒瀬くんが少しだけ口元を緩める。
空翔くんは、にかっと満面の笑みでピースをしてきた。
前は、人に心を開くのが苦手そうだった黒瀬くんも、こんなふうに笑うんだな。
そんな当たり前のことが、なんだか嬉しくなった。
また何か言い合いを始める2人。でも……
「……なんか、いいかもね」
ここねはその様子を見ながら、頬を緩ませ小さくつぶやいた。
——『しっかり者に見える人でも、苦しいときはある。
無理して“ちゃんとしなきゃ”って思わなくていいんだって、教えてもらった。』
6ページ目に書いた、文章を頭の中に浮かべた。
暴れる『お祝いバサミ』を見て、3人で笑い合ったっけ。
黒瀬くんと笑い合う日が来るなんて、思ってもなかった。
曲がっても、ちゃんと戻る定規みたいに——
人の気持ちも、そうやって少しずつ、やわらかくなっていくのかも。


