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「……ごめんください」
放課後のパレット。
チリン、と鳴ったドアベルの音と一緒に、ひとりの女の子が入ってきた。
わたしは、すぐに彼女の顔を思い出した。
「あっ、みのりちゃん!」
それは以前に来てくれた子だった。
シャイだけど優しくて、物語を作ることが好きな子。
作文のコンテストに向けて、がんばっていた。
そのとき、わたしは『応援メモ帳』を選んで渡したんだった。
「どうだった? あれ、使ってみた?」
わたしが笑顔で聞くと、みのりちゃんは一瞬だけ視線を逸らして——
ゆっくり首を横に振った。
「……使ってみたけど、だめだった」
「え?」
「書こうと思ったの。ちゃんと、気持ち伝えようって。応援の言葉もいっぱいあったし……でも、書いてるうちに、逆に自信なくしちゃって……」
みのりちゃんの声が震える。
目も、少し潤んでいた。
「“本当は、こんなこと書いても届かないよね”って、自分の字を見て思っちゃったの。……魔法なんて、かからなかった」
そのとき、店内に差し込む光が、すこし陰った。
あたたかいはずの空間なのに、みのりちゃんの心が曇っているせいか、まるで棚の文具たちまで静かになったようだった。
ぱちん、と音がした。
ひとつの棚から、紙クリップが静かに落ちた。
まるで、彼女の心が少しだけ壊れかけた合図のように。
「ごめんね」
みのりちゃんは軽く頭を下げて、静かに店を出ていった。
チリン。
ドアベルが揺れる音が、今日はやけに大きく響いた。


