ここねは、カウンターの引き出しから一本の鉛筆を取り出す。
淡いピンク色の木軸。軸の途中には、小さなつぼみのマークが刻まれている。
——わたしが、はじめて自分で作った魔法文具。
「これ、“つぼみえんぴつ”っていうの」
「……名前からして、やわそ……」
「気持ちをちょっとずつ、書いていく鉛筆だよ。書いたぶんだけ、気持ちが育っていくの。無理に“咲かせる”必要はないの。時間がかかっても、ちゃんと自分の気持ちが形になっていくって、そういう文房具なんだ」
まゆちゃんはしばらく黙っていたが、やがてぼそりとつぶやいた。
「……“今の気持ち”が、未来になる、ってやつ?」
「うん。ゆっくりでも、自分の気持ちを育てていけたら、きっと素敵な花が咲くと思う」
「ふぅん……」
「わたし、恋愛未経験のお子ちゃまだけどさ、文房具でサポートすることはできるよ」
まゆちゃんはしばらく鉛筆を見つめてから、
ごく小さく息を吐き、まるで何かを包むように両手で持った。
それから、バッグの内ポケットへ静かにしまった。
「……べ、別に感謝してるわけじゃないけど……その鉛筆、悪くないかも。
……ありがと。あんた、キラキラしてるくせに、ちゃんと話、聞けるんだね」
そう言って、照れくさそうに店を出ていった。
扉のチャイムが、ちりんと鳴った。
まゆちゃんの後ろ姿が見えなくなったあと、ここねは小さくつぶやいた。
「……つぼみ、ちゃんと育つといいな」


