チリン、と鳴った瞬間——
胸の奥に、何かが届いたような気がした。
まるで「ほんとのわたし」を呼び起こす、目覚ましみたいに。


足を踏み入れると、きゅっと靴と床が擦れる音がした。


扉を開けた瞬間、ふわりと甘くてやさしい香りが鼻をくすぐる。
それはバニラでもラベンダーでもない、不思議と“安心”のにおいだった。


空気は、目に見えない星屑が舞っているみたいにきらきらしていて、光の粒がふわふわと文房具のあいだを漂っている。





「いらっしゃいませ」





奥のカウンターに、ふわっとした金髪のお姉さんが立っていた。
ふしぎと年齢がわからない見た目で、やさしい空気をまとっている。
やさしい色の瞳は、まるで星空の中にひと粒だけ浮かぶ、キャンドルみたいだった。





「……あ、すみません、間違えて入っちゃって……」





思わずそう言って帰ろうとしたここねに、その人はふわっと笑った。





「いいのよ。ここは“必要な人”にしか見えないお店だから」

「……え?」

「魔法文具屋“パレット”へようこそ。あなたの“こころ”にぴったりの文房具が、そっと待っているわ」





お姉さんがそう言った瞬間、店内の空気が、少しだけ変わった気がした。


見渡すと、棚にはふしぎな文房具がずらりと並んでいた。
色鉛筆が宙に浮いていたり、ノートの表紙が瞬きしたり——まるで夢の中にいるみたい。



ふしぎな空間。ふしぎな人。
でも怖いという感情はなくて、むしろワクワクさえした。