それから数日後、女の子はまたお店へやって来た。
腕には、コンパスノートをかかえている。
「こんにちは、魔法文具屋さん」
「こんにちは。また来てくれて、ありがとうございます!」
「……あのね、コンパスノート使ってみたよ」
「どうでしたか?」
「正直、まだ漠然とした不安は消えてはいないけど、少しだけ心が軽くなったの」
女の子はかばんから、あの『コンパスノート』を取り出した。
表紙の星の模様は、ほんの少し手に馴染んでいるように見える。
ページをめくると、かわいらしい字で、その日その日の気持ちが綴られていた。
「『不安』とか『焦り』とか、最初はネガティブな言葉ばっかりで。でも、書いているうちに、今自分が不安に思っていることがちょっとずつわかってきたの」
女の子は、周りの人と比べてしまうクセがあるみたいだった。
中学3年生、受験の時期。
周りの人と比べて、自分の将来に、漠然とした不安を抱えていたみたい。
「でもね、自分の中の小さな声を聞いて、不安とちゃんと向き合ってみたら、自分でも気づかなかった“好き”がちょっとずつ見えてきて」
彼女はページを指さした。
「ここの日は、図書室で偶然読んだエッセイが心に残って。“文章って、誰かの背中をそっと押してくれるんだ”って思ったの。……その日から、“誰かの気持ちを言葉で支えられる人になりたいかも”って思い始めたの」
「それって、すごく素敵なことですよ!」
ここねは本心からそう思った。
「夢が決まった!」みたいな華やかさはないけれど、漠然な不安に囚われていた子が、自分の心に向き合って、少しだけ“歩き出したのだ。


