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4日目の夕方。
お店のカウンター奥に座って、接客ノートを読み返していたときだった。
——プルルルル。
店内に電話音が響いた。
「魔法文具屋パレットです!」
『あ、ここねちゃん?』
このやさしく落ち着く声は……。
「店長さん!?」
「うん。急にごめんね、電話しちゃって」
電話越しの声は、少し焦っているように聞こえた。
「どうしたんですか? 何かありました?」
『それがね……こっちでちょっとしたトラブルが起きちゃって。3日後帰る予定だったんだけど、予定よりだいぶ遅れそうなの』
「えっ、だいぶって……?」
『たぶん、予定より1週間くらいはかかるかなあ』
「ええっ!?」
さすがに驚いて、声が裏返る。
たった1週間、と思って引き受けた店番。でもそれが、倍になるなんて。
『急でごめんね。でも、ここねちゃんにしかお願いできなくて』
「……わたし、ちゃんとできてますか?接客とか、お店のこと……」
『もちろん。お客さんたちからも、すごく評判いいよ。むしろ私が帰ったら、私いらなくなっちゃうかも』
「そんなことないですよ……!」
でも、ふと胸の奥がじんわり温かくなる。
頼られてる。それが、なんだか嬉しかった。
『”パレット“を守ってね。“パレット”はきっと、ここねちゃんの力で輝けるお店になると思うの』
優しい声でそう言って、電話は切れた。
少しだけ、不安もある。
でも、それ以上に——楽しみだと思えた。
それだけで、自分が成長していると感じた。
「よーし、あと1週間ちょっと。がんばろう……!」
ぎゅっと拳を握って立ち上がった。
“このお店と、自分の物語はまだ終わらない”——そう思えた。



