帰り道。
ふと、誰かの声が頭の中をよぎる。


“空気読めって言ってんの、わかる?”
——小学校の頃、クラスの中心にいた子に言われた、たった一言。


あの一言で、わたしは変わった。
自分の気持ちを伝えるのが、こわくなった。
“わたしのせいで誰かをイヤな気持ちにさせるかも”って、毎日、心の中でチェックを繰り返してる。


でも、それって本当のわたし?
チェックした言葉って、本当にわたしの言葉なの?
……じゃあ、わたしって誰?
みんなが期待する“いい子”をやめたら、もう、ここにいる意味なんてないのかな。



中学2年生。
心もからだも少しずつ変化してきて、戸惑う毎日。


周りとの関係がむずかしい。
しっかり者に見られるけど、実は自分に自信がない。
でも、人前では“いい子”を演じてしまう。


そんな毎日に、疲れてしまった。




気づけば、夕焼けが街を染めていた。
でも、今日の空はなんだかいつもとちがう。


遠回りし、いつもとちがう道をとぼとぼ歩いていると、ふと現れたんだ。
ポツンとたたずむ、小さなお店。
レトロな木の扉に、手描きの文字。





『魔法文具店*パレット』
〜ココロ、ぬりかえるお手伝いします〜





え、なにこれ。
魔法?文房具?そんなの聞いたことないけど。
こんなお店、あったっけ?


木の扉から、インクと木の香りが混ざったような、どこか懐かしい匂いが漂ってきた。
「いらっしゃい」と誰かの声が聞こえたような気がして、ここねは思わず足を止めた。


好奇心と、ちょっとだけ不安を抱えて——
ここねは、その扉をそっと開けた。