ここねはインク瓶を手に取り、そっと差し出す。
「これは、『ほめことばインク』っていうんです」
「……ネーミング、ちょっとウケるんだけど」
「このインクで周りの人の名前を書くと、その人の“心の奥にある言葉”が浮かび上がるんです。
たとえば、お姉さんのことをどう思っているのか……“本当のほめ言葉”とか」
「……本当の、ほめ言葉?」
「そうです。SNSのコメントとかよりずっと、ちゃんとしたやつ」
お姉さんにペンと紙を手渡す。
お姉さんはしばらくまじまじとペンを見つめていた。
本当の言葉を知るのって、こわいよね。
周りの人が自分をどう思っているかなんて……むしろ、知りたくないくらい。
でも、このインクなら大丈夫。
だって——『ほめことばインク』だから。
褒め言葉しか浮かんでこない。
お姉さんはおそるおそるペンを走らせた。
そこに“自分の知らなかった言葉”が浮かんでいく。
「明るくて一緒にいると楽しい」
「いつも努力してて、すごいと思う」
「自分が頑張ってるからこそ、人の努力に気づける優しい子」
……それは、ずっとそばにあったのに、お姉さんが気づけなかった“大切な価値”だった。


