「はっ!?」



「あ、起きた」




バッと起き上がれば、やっぱりそこは超豪華な私のお部屋だった。



そしてなぜか私が寝ていたベッドに、尊都さんが座っている。




「尊都さん?」




寝て起きたら尊都さんのお顔が目に入るとは。視力が上がりそうだ。



私が美貌が眩しくて瞬きしていると、尊都さんは高級シャンプーでちょっとだけツヤツヤになった気がする私の髪を撫でてくれた。




「おはよう。随分気持ちよさそうに寝てたね」



「おはようございます。これがベッドで寝るってことなんですねえ。3秒で寝れましたよ」



「……お前今まで何に寝てたの?」



「床に敷いた毛布?」



「わあ」




なにドン引きしてんすか。



尊都さんが引くなら私もあなたの財力に引いたろか。




「まあいいや。晩御飯持ってきたけど、食べる?」



「食べます!ちなみにメニューは……?」



「一応少なめに、野菜のスープと果物とかにした」



「!!」




いきなりいっぱい食べると胃がびっくりしちゃうなあ、って思ってたんだよね。



そしたらそれを気遣ってくれてるメニューだと尊都さんが言った。



気遣いが深すぎて溺れそうだ。



とまあ、私が感動に打ち震えている間に、尊都さんは私の前にガラガラと食事が乗ったワゴンを運んできた。




「うわあ、私尊都さんにご飯運んできてもらってる」



「刹菜だけの特権ね」



「またまた、恋人にでもやってるんじゃないですか?……あ、ありがとうございます」




尊都さんから野菜のスープを受け取って一口食べてみる。



すると暖かくて優しい味わいが口の中に広がっていった。




「………………」



「美味しい?」



「…………………………」




いつぶりだろうか。こんな美味しいものを食べるのは。



私は返事をするのも忘れてスプーンを進める。




「………」



「…………」




尊都さんの視線を感じるけど、そんなの気にならない。



とっても安心する。びっくりするほど感動してしまった。




「はあ……おいしい」



「……それはよかった」




私は尊都さんに返事しなかったし、そもそも立場的に生意気すぎる口叩いてばっかなのに。



尊都さんは、私の横に座ってずっと頭を撫でてくれていた。




「……ちなみにだけどさ」



「はい?」




スープを食べ終えたタイミングで、尊都さんは私にずいっと顔を近づけてきた。



適度な距離がないと私の視力が3.5ぐらいになりそうなのでのけぞって距離を保っておく。



そんな私を見ておかしそうに笑いながら、少し掠れた声で尊都さんは言った。




「俺恋人できたことないから。正真正銘、こんなことしてあげんのはお前だけだよ、刹菜チャン」



「……っ⁉︎」




何かの危険を感じて、私は本能的に2、3歩分ほど離れた。



……やば。なに今の。



背中がぞくっとして、刺されるかと思った。それでいて色気が出てて、体の中で響く声。




「は、かわい」




ペット感覚なのか、私をそう表現した尊都さん。



まだまだボロボロの私はかわいくないと思うのだが。



まあ野良猫のタマを拾って甲斐甲斐しくお世話している感覚ならわからんでもない。



……けど、かわいいは心臓に悪いな。



さっきの発言もあって、なんかめっちゃ過剰反応しちゃった……。



からかわないでください、とでも言いたかったけど、私はそれで妙に恥ずかしくなっちゃって。



結局、私は反論せずに大人しく果物を頬張ったのだった。







――こうして、私の摩訶不思議な雇われ生活は、幕を上げた。



……うーん、まじで不思議だ。



世の中どうなるかわからないな。