「……………………」




そんなこんなで午後の授業も終わり、私は最寄り駅にやってきた。



今日のバイトは全部お休みにしてもらった。



というか後ほど尊都さんに辞めろと言われる気がするので、もしかしたら辞めるかもというのも伝えておいた。



――そして今、私は第一関門に到達した。




「うーん、あれだよなあ」




尊都さんは、最寄り駅に迎えを手配すると言った。



ええ、そうですね。手配されておりましたとも。



私が目立つことに配慮してくれたらしく、最寄り駅の近くの中でも人通りが少ない場所を選んでくれている。



そのおかげか人に見られる心配はなさそうだけれども。




「あれに、乗るのかあ……」




やはりと言うべきか、なんと言うか。



当たり前のように黒塗りの車だ。



あれなんてやつだろう。車には詳しくないけど、ベンツとかいうやつかな。




「落ち着こう。これを乗り越えたらお風呂」




それもたぶん広ーーいやつ。バラとか浮かんじゃってるやつ。泡だらけだったりするやつ。



そのためには踏み出さねばなるまい。




「ふぅ……よし」




ぎゅっとツギハギだらけのスクールバッグを握りしめた。



レッツゴー。女は度胸。




――――――…………




結論。



校長室のソファの3倍はふかふかだった。



体を柔らかく包み込む包容力、素晴らしい。



いつも私が寝てる床と違いすぎて泣けてくるね。



緊張していたとはいえ、思い切ってお邪魔して座ったらもう緊張なんか吹っ飛んで、ふかふかさを堪能してしまった。





というわけで。





「どうぞ、ご案内致します」



「ど、どうも?」




やってきました、大豪邸。



でも雇われる私ごときが執事に車のドアを開けてもらってよかったのだろうか。



なんか複雑な気持ちになりながらも、私は案内に従って大豪邸に足を踏み入れた。




「わ、でっかいエントランス」




というか、マンションでもないのにエントランスってなんだろう。



キッチンと寝床と玄関が一体化している私のボロ屋はいったい?



磨き上げられた石床に塵一つない絨毯。



靴を脱ぎ、玄関の隅の隅の隅に寄せてから私はまた歩き出す。



それにしてもすごい。



シャワー数十秒でお風呂を終わらせた私はルンバかなにかにゴミ判定されるんじゃないかってくらい綺麗だ。




「刹菜様が帰ってこられたらまずご入浴に案内しろとのことでしたので、脱衣場にご案内いたします」



「ありがとうございます」




尊都さん、お昼での会話ちゃんと伝えておいてくれてたんだ。




「制服は後ほどメイドが回収いたしますので、刹菜様は用意してある服へとお着替えください」



「何から何まで、申し訳ないです」



「いえ、お安いご用です」




執事さんはさっきから洗練された動きだ。



まだ30代くらいに見えるのに、もう随分とこの仕事をしているのかもしれない。



労働環境がちゃんと整えられているのかな、とか考えながら脱衣場に向かった。




脱衣場を示して、執事さんは退出していった。



私は言われた通りに脱衣場に入って服を脱いでカゴに入れると、浴室に繋がる扉を開けた。




「…………でっかいお風呂」




3人は余裕で入れる大きさだった。



浴槽のすぐそこに大きい窓があり、そこから植物がいっぱいのミニサイズの庭のようなものが見える。



全体的に黒を基調としたテイストで、浴室に入っただけでだけで肌が潤った気がしてしまった。



浴槽にはバラも浮かんでないし泡だらけでもないけど、きっと入ればとろけるような心地になるに違いない。



これが財力か。財力なのか。




「なにあれ、ジェットバス?」




銭湯かよ。



いや銭湯はこんなおっしゃれで高級でセレブーな感じではないか。



ああもういいや、とにかく入ろう。物心ついてから初めてのこんなに素敵なお風呂だ。



尊都さんもあんなふうに言ってくれたことだし、楽しまないとね。








補足すると、なんかサウナもついてた。気持ちよかった。