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「………………」
昼休みにて。
私は今の状況がわけわからなすぎて、とりあえず目をぎゅっとつぶってもう一度開いてみた。
…ふむ。変わらないな。
続いて、膝の上に重ねている手をそっと動かして、手の甲をつねってみる。
…痛い。
実は昨日の事件の催眠剤でまだ夢の中、ってわけでもなさそうだ。
「なに、動揺してんの?かわいーね」
「…………コウエイデス」
ありきたりな言葉を言わせてほしい。今の私の心情を正確に描写する言葉だ。
……どうしてこうなった?
現在校長室。
座ったことないくらいのふっかふかなソファに座っていて、とてもお尻が快適。
そして私の向かいには――昨日の、めっちゃかっこいい人。
まじで、どうしてこうなった。
私たちは昨日、お互いに自己紹介なんてしていない。
なんなら私はすぐ逃げたし、この学園に通ってますなんて呑気に言った記憶もない。
だから私はこの人の名前も年齢も職業も、なに一つ知らないのに。
でも校長先生が言うことには、いきなりこの人から連絡きて、「今からそっちに行く」なんて言われて。
急いで出迎えてみれば、私の写真とともに「この子に会いたい」って言ってたらしい。恐ろしい。
もしかして先生たちの大掃除はこの人のためかと思うととっても申し訳なくなってくる。
「……あの」
「ん?」
私は、動揺する私で明らかに楽しんでいるとしか思えない「彼」に、思い切って聞いてみた。
「ご用件はなんでしょうか?」
「……ふーん。やっぱり肝座ってるよね、俺相手にそれ聞けるなんて」
「ありがとうございます?」
「なんで疑問なの?まあいいけど」
肝が据わっていると言うが、取り繕った答えを言う方が野暮というものだ。
そんな答えが欲しいのならわざわざここに呼び出してなんかない。
話が始まる前に校長先生が部屋を出て行ったのも、内密な話だという意味なのだろう。



