今夜、星影を溶かして



手は体の前方で結束バンドで結ばれている。足も結ばれているがまあ、想定内だ。



スマホは盗られているようだ。これも当然だろう。そうじゃなかったらあまりにもマヌケ。



手首の腕時計を確認すると……まだそんなに経ってないな。



車まで歩いて運んできたことを考えると、まだカフェに近い位置のはず。



だから運転手さんが異変に気づくのにはまだかかる。



ここは、私が自力で脱出しないと。




「おい、あと何分で着く?」



「ナビによると……あと30分ですかね」



「まったく、あいつら辺鄙(へんぴ)な場所に店作りやがって……高い値で買うからいいが、不便なもんだ」




ギリギリ男の話し声が聞こえた。



聞こえる声は2人分のみ。会話から察するに到着まであと30分、人身売買のお店は辺鄙な場所かつ複数人、と。



30分あれば、手と足の結束バンドはどうにかできそうだ。



あとは場所だけど……車で30分なら、歩いて帰るのは無理だな。



なんとかスマホを返してもらって連絡するしかないか。




「にしてもあいつら、なんで女を買い漁ってんだ?」



「さあ?噂によっちゃあ海外にいい買い手がいるとか……」



「いやでもそれデマらしいぜ。何が正しくて何が違うんだかよくわかんねえなあ」




会話を盗み聞きして情報を集めながら、慎重に結束バンドを解いていく。



体とバンドを捻って、えーっと、どうするんだっけ?



たしかこうやって衝撃を……えい!



……よし、気づかれてないね。とりあえず手は外した。



とまあ、そんなこんなで準備は着実に進んでいく。



どうやら買い手は相当な慎重者らしく、店員や値をつける偉い人でさえ、「誰が欲しがっているか」わからない状態であるようだ。



その買い手の正体がわからない限り、人身売買問題はどうにかできそうにないな。



最近は本当にいろんなことがあるけど、これが一番迷惑だ。