「…………」
はっ、また寝てた。
気づけば私は、本を片手にソファの上で居眠りしていた。
時計を見たら、本を読み始めてから1時間ほど経っている。
……よかった、熟睡はしてないみたい。
本が思ったより難しかったのがいけなかったよね。
小説だからいけるかなとも思ったんだけど、何ページ読んでも会話文が出てこないから眠くなっちゃったよ。
おかげで夢まで見て…………あれ?
そこで、私は首を傾げる。
「私、何の夢見てたっけな……」
まあ、夢なんて記憶すぐ消えるし、覚えてられないか。
……次はもっと、会話文がありそうなものを読もう。
というか、いっそアダム・スミスの国富論とか読んだ方が眠くならないかも?
「……ん?」
するとそのとき、ブーッ、と私のスマホが震えた。通知に指を滑らせると、尊都さんからメッセージが来ているのを確認する。
『今から帰る』
ふおお……これがメッセージのやり取りというやつか。
メッセージアプリの使い方は教えてもらってるけど、実際に使う場面に遭遇すると感動するな。
糸電話じゃなくても遠くから意思を伝えられる現場、やっぱり衝撃だ。
私は感動の余韻に震えつつ、早速返答の文字を打ち込んでみた。
『鬼をつケテくださね!』
「んむむ、難しい……」
なんだ鬼をつけるって。「けて」がカタカナになってるし、なんか「ください」の「い」が抜けてる……。
普段みんなってこんなの使ってるのか、すごいな。なんで間違えず打てるんだ?
「修正しゅうせ……ああっ⁉︎」
間違って修正途中で送っちゃった!
なんてこったい。『鬼をつケてくだいね!』だって。
なんで「ください」の「い」が入って「さ」が抜けてるんだ、馬鹿でしょ私……。
しかも「鬼」と「ケ」直ってないし。
送信取り消しってどうするんだっけ……と思って試行錯誤している間に、既読がついてしまった。
時すでに遅し。というか取り消しが遅し。
そして尊都さんからすぐに送られてくる、返答。
『鬼は連れて帰らないからね』
「うう…………」
私のご主人様、いじわるだ……。
1人、部屋で項垂れる私。
よし、今度は間違えないように打ってみよう。
返答に対する文句を、今度は誤送信しないように気をつけながら打っていたら、ようやく送った3分後に尊都さんが帰ってきた。



