__数日後
今日も撮影は続いてた
昨日から少しだけ
自分の中で何かが掴めた気がして
カメラの前に立つのが
ちょっと楽しみに思えてた
今日のシーンは
付き合い始めた二人のデートシーン
「寒くない?」
相手役がコートの裾を広げてくれる
私はそのコートにそっと入り込んで
ほんの少しだけ顔を上げる
「……ありがとう」
相手役の胸元に小さく手を添えて
目線をふわっと合わせた
セリフを言わない”間”の空気
こないだの涼真くんの芝居を思い出しながら
自然な呼吸を意識した
「カット!」
監督の声が響く
「いいよ奈々ちゃん!すごく良くなってる」
スタッフさんたちも微笑んでくれて
胸の中がじんわり熱くなった
「……よかった」
カメラが回るたびに
少しずつ
芝居が楽しくなってきた
撮影が終わって
控え室に戻ってしばらくすると
__コンコン
ノックの音がした
「……どうぞ」
ドアが開くと
そこにいたのは
「奈々、お疲れ!」
涼真くんだった
「えっ……涼真くん?」
「疲れてる時にいきなりごめんな!
たまたまここのスタジオ、今日も撮影で来てたからさ」
ゆるく微笑む涼真くんは
いつも通り自然で落ち着いてて
「今日の撮影ちらっと見させてもらった。
全然いいじゃん!上手いよ」
「えっ…ほんとに?」
「うん。芝居の”間”の取り方とか
ちゃんと意識できてた」
「…はぁあ…よかった」
嬉しくて
自然に顔がほころんだ
「……なんか、少しずつだけど
楽しくなってきたかも」
「お、それでいいんだよ。楽しめるのが一番だろ」
柔らかく笑うその声に
またちょっとだけ緊張がほぐれた
「でも…まだまだだけどね」
「ま、これからだな。焦んなくていい」
ふっと笑って
涼真くんは軽く手を振った
「じゃ、また現場で。悪いないきなり来て」
「ううん、嬉しかった。ありがと!!」
去っていく背中を見送りながら
私は小さく息を吐いた
ほんの少しずつだけど…
前に進めてる気がしてた



