___翌日
今日もドラマの撮影が始まった
少しだけ
昨日の涼真くんの芝居を思い出してた
手の動き
距離の詰め方
目の揺らぎ
「……よし…やってみよう」
私は深呼吸をして
立ち位置に入った
今日のシーンは
ヒロインがずっと片想いしてた相手に告白するシーン
相手役の俳優さんが
ゆっくり私の方へ歩み寄ってくる
「……好きだ」
その言葉に
私は少しだけ目線を揺らした
こないだ見た涼真くんみたいに
ただセリフを受けるんじゃなく
感情が揺れてる”余白”を出す感じで
胸の前でぎゅっと両手を握る
唇が震えるのを
ほんの少しだけ演じてみる
「……私も……好き、です」
静かに
けど少し涙がにじむくらいの気持ちで
「カット!」
監督の声が響いた
「……いいじゃん、奈々ちゃん!感情の動き、前よりすごく自然になったよ」
「え…」
「うん、昨日よりずっと良かった!最高」
スタッフさんも優しく頷いてくれた
心臓がドクドク鳴ってた…
嬉しかった
ちゃんと
昨日の涼真くんの芝居を思い出して
私なりに少しでも近づこうとしたのが
形になった気がしてた
「……やった」
小さく声に出したその時…
「奈々ちゃん!!」
後ろからマネージャーさんが声をかけてきた
「すごく良かったよ。感情の動き、ちゃんと伝わってた」
「ほんと……?」
「うん。監督も喜んでたし。……何か勉強でもした?」
一瞬、涼真くんの顔が頭に浮かんだ
でもなんとなく
それは今は言わずにおいた
「……ちょっとだけ、研究してみた」
「そっか。いい感じに掴めてきたね」
マネージャーさんはにこっと笑って
そっと背中を軽く叩いた
「この調子で行こう」
「……はい!」
胸の奥がじんわりあったかくなった
少しだけ
自信が芽生えた気がしてた



